3.共有結合と分子軌道法
(基本無機化学p.38~43。ただし説明の順序を入れ替えてある)
<この項目のポイント>
① 波動関数と原子軌道 … 用語に触れるのみ。
② 分子軌道法による共有結合の考え方、σ結合とπ結合の定義 … 結合性軌道と反結合性軌道。
③ 簡単な等核2原子分子の分子軌道と結合次数 … 特に酸素分子と分子イオンの分子軌道。
3-1 波動関数と原子軌道
・波動関数(軌道関数) … 原子中の電子の軌道は、(非常に複雑な)関数で表現することができる。
例) 2py軌道の波動関数
波動関数を2乗した関数が電子雲の形を表現するものである。
かなり厳密さを欠くが、軌道の形と波動関数の形は似ていると考えてよい。また、とき
には「軌道」と「波動関数」が同じ意味に使われたりすることもある。
・線形結合(テキスト中の用語) … この「結合」という言葉は化学結合のことではなくて、足し算、引き算
ということ。原子の結合を原子の波動関数の足し算、引き算で表現するのが分子軌道法。
*上の二つの言葉は量子化学で詳しく説明される。ここでは気にしないこと。
3-2 σ結合とπ結合
σ結合: ある結合を結合軸に平行に見たとき、原子軌道の投影図形がs軌道に似ている結合。
(テキストではもっと複雑な表現になっているが、今は気にしないこと)
π結合: 結合軸に平行に見たときの原子軌道の投影図形がp軌道に似ている結合。
原子軌道(軌道関数)の重なりの程度が大きいほど「強い結合」ができる。
1)2pz軌道同士のσ結合と、2py軌道同士のπ結合とでは、どちらの結合が強いか?
3-3 結合性軌道と反結合性軌道 … 厳密な理解は後回しにして、以下の重要事項を覚えること。
① 2個の原子が1本ずつ軌道を重ね合わせて共有結合を作るときには、もともとの原子軌道は一旦消
滅し、新たに1本の「結合性軌道」と1本の「反結合性軌道」ができる。これらを「分子軌道」という。
下の図の縦軸はエネルギーを表す。
重要② 結合性軌道はもとの原子軌道よりもエネルギーが低く、反結合性軌道はエネルギーが高い。
したがって、結合性軌道は結合を作り、反結合性軌道は結合を解消しようとする軌道である。
原子軌道の重なりが大きいほど、結合性軌道のエネルギーは低く、反結合性軌道のエネルギ
ーは高くなる。
重要③ 電子はPauliの原理とHundの規則に従い、分子軌道に入りなおす。
したがって、今2個の水素原子から水素分子ができることを考えると、水素分子の「分子軌道」には電子は中央のように入る。
問題:分子軌道に入った電子のエネルギーは、もとの原子軌道のときと比べてどのように変化したか?
すなわち、共有結合ができるということは、電子がもともとの原子軌道よりもエネルギーの低い分子軌道(結合性軌道)に入ることによって、電子のエネルギーが安定になるという現象が起こるということである。
<確認> He2という分子が存在しない理由を分子軌道に基づいて説明せよ。
3-4 簡単な等核2原子分子の分子軌道 (O2を例にして)
酸素原子の原子軌道
今、結合軸に向いたp軌道をpz軌道とすると、pz軌道同士はσ結合、py同士とpx同士はπ結合を作る。σ結合の方が軌道の重なりが大きいから、p軌道だけに注目すると、下図中央のような分子軌道ができる。
1s軌道、2s軌道の電子は結合を作らない
(結合がキャンセルされる)から、考えなくて良い。
上図中央に、2×4個の電子を③に従って
配置すると、右下に示すようになる。
すなわち、酸素分子は、結合性軌道に入った6個
の電子と、反結合性軌道に入った2個の電子(これ
らは不対電子)によって結合されている。
酸素分子は常磁性(磁石に引き寄せられる性質)がある。
常磁性は不対電子が存在することに起因する性質である。
酸素分子中の不対電子の存在は、高校で習ったルイス式
(点電子式)では説明できないことに注意すること。
*F2分子の分子軌道も、同様にして考えることができる。
*B2、C2、N2の分子軌道は、2s由来の軌道との相互作用があるため、O2と同じようには考えることができ
ない。テキストはやや厳密に書きすぎているので、理解しにくいかもしれない。これらの分子軌道につい
ては、今のところ理解しなくても良い。
3-5 結合次数
「結合次数」 = {(結合性軌道内の電子数)-(反結合性軌道内の電子数)}÷2
点電子式でいうところの、○重結合とほぼ同じ意味。しかし結合次数は整数でないこともある。
宿題
1.酸素分子の結合次数はいくらか。
2.スーパーオキサイドアニオン(O2-) …これは活性酸素の一種で生体の老化と深いかかわりがある…
の結合次数はいくらか。
3.酸素分子、酸素分子イオン(O2+)、スーパーオキサイドアニオンを、結合距離が短いと思われる順に並
べよ。
4.NO、NO+、NO-の分子および分子イオンの分子軌道はO2分子と同様に描くことができる。それぞれの分子
軌道に電子を配置し、結合次数を答えよ。また、点電子式でNO分子が何重結合かを言い当てることがで
きるだろうか?
5.過酸化水素(H2O2)の点電子式を書け。このときO-O結合は何重結合になるか?その点電子式が正しいか
どうか、過酸化物イオン(O22-)の分子軌道に電子を配置して確かめよ。分子軌道はO2分子と同様である。
6.高校の教科書を参考にして、以下の問題を解け。
6-1 弱酸とは何か。20~30字程度で簡単に説明せよ。
6-2 弱酸の性質を正しく記述しているものを以下の中からふたつ選べ。
① 弱酸とその塩の混合水溶液で緩衝液を作ることができる。
② 弱酸とその塩の混合水溶液のpHの値は常に7より大きい。
③ 弱酸の酸性塩の水溶液は常に酸性を示す。
④ 弱酸の水溶液では、弱酸の濃度が大きいほど電離度は小さい。
6-3 リン酸は弱酸である。リン酸水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えたときに起こる変化のうち、正し
いものを下からふたつ選べ。
① PO43-の濃度が大きくなる。
② pHの値が小さくなる。
③ 発熱反応が起こる。
④ 吸熱反応が起こる。
⑤ O2が発生する。
⑥ H2が発生する。
7.(予習問題)酢酸を濃硫酸に溶かすと、下のような解離平衡が生じる。左辺の(ブレンステッド)酸はどれか。またその共役塩基はどれか。
CH3COOH + H2SO4 → CH3COOH2+ + HSO4-
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